【KOF】シェン誕生日(くずは)

2008年09月10日 00:01

 本作品は、サークル:空星路 発行の『祝ってもいいでしょ? -1冊にまとめたんだ-』に収録しています。
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 以下、序文です。




祝ってもいいでしょ?  9月10日


 いつもの朝と違うな、と思ったのは、この時間必ず耳に届く雑音が一切無かった為だろう。
 ソファからのそりと起き上がったシェンは、いい加減見慣れるべき景色を眺め、側頭部を掻いた。煌(きら)びやかな装飾を頼み込んで極力外して貰ったが、ベッドの彫り物やテーブルなどはどうにもならなかったので、仕方無く居座って頂いている。アンティーク物のソファが、一番寝心地が良かった。屋根付きのベッドなど、上海の裏通りで生計を立てるシェンには不要以外の何物でもない。物置として使うスプリングから、彼は放置していたジャケットを取り上げた。いつもの赤紫ではなく、本日は白に赤銅の龍が刺繍された物を、素肌の上から直接羽織る。
 腹部に巻かれた包帯と固定材の板が、そろそろ邪魔になってきた。肋骨を折る、という事故に遭ったのだが、詳しくは後述する。
 患部を眺めていても仕方が無い、と部屋を出て、廊下突き当たりの階段を目指した。
 古い建物のわりに、基礎がしっかり組まれていて、歩く際の軋み一つも聞こえない。敷かれた絨毯は紺色で煩(うるさ)くなく、極薄のクリーム色を纏(まと)った壁と反り合う様子は見られなかった。正に、『静』。『動』の世界で生きてきたシェンには、不思議な感覚が支配する館(やかた)だと思えた。知人二人はこの空間を「落ち着く」と話していたが、そう言えば両者とも『闇』に生きる者だったと、今更思い出す。道理で上手く歯車が噛み合わない訳だ。シェンと双方の間に潜り込んでいた歯車が、『KOF(ザ・キング・オブ・ファイターズ)』以降姿を見せなくなった少年だったとも、回想して改めて認知した。
 ふと、アッシュ・クリムゾン繋がりで連行された館の、若き主の気配がした。手摺に近付き、吹き抜けた廊下より見下ろす。……居た。
 エリザベート・ブラントルシュは、アッシュと旧知の仲らしい。そう言えば、『KOF』会場で彼女の姿を見つけた、と言っていたアッシュが、珍しく挙動不審な様子を見せていた。詳しく聞いてはいないけれども、少年の行動で何となく解った……ああ、彼女が恐いんだろうな、と。
 男の予想をことごとく裏切らなかった館主の、高慢な態度にブチ切れてから、早一週間。ろくに口も利かず、姿を見付ければ足早に回避してきたがしかし、他の存在が感じられない今、声を掛けられそうなのは彼女しか居ない。シェンは腹を括った。

「よお、お姫さん。堕瓏(デュオロン)とジィさんが見当たらねぇが、どこ行ったか知ってるか?」

 左腕を手摺に乗せ、階下の彼女に向かって発する。やはり、と言うべきか、睨み上げられた……と思ったが、いつもとは異なる態度を彼女は見せた。

「……御機嫌よう、シェン・ウー」

 拍子抜けした。まさか挨拶が返ってくるとは。備えていなかった為、切り返す事が出来ない。いやそこはいつも通りにいこうや。せかせか歩き出したエリザベートに見えないよう、空気に突っ込みを入れて、シェンは階段を下った。

「おーい、時計ウサギよ、何をそんなに急いでんだ」
「貴方には関係の無い事です」
「いいや、大有りだな。ゲストを独りにして良いのか、ん?」
「……」

 調子に乗りすぎたか? エリザベートの表情を窺うと、怒る訳でもなく、ただ困惑の色を浮かべていた。ゲストを独りにするのは確かに失礼、しかし……そんな声が聞こえて来るようだ。本当は、立ち止まって受け応えるこの時間すら惜しい筈なのに、律儀だな、という感想を抱く。期待した毒舌の一つも無い、高飛車な態度も無いで、シェンの側も調子を狂わされていた。
 あーもう、面倒臭ぇ。らしくない彼女に苛立って、シェンは頭を掻くと、「よし」と意気込んだ。

(本文へ続く)
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